医療機関に迫る6月危機〜地域の医療を脅かす収入減少〜

医療機関に迫る6月危機〜地域の医療を脅かす収入減少〜

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により、多くの業種が苦境に立たされている。緊急事態宣言による営業自粛の要請の影響ももちろん、営業自粛対象以外の業種でも、様々な事業所が収入の減少に直面している。そんな中、経営的な影響についてあまり話題にならない業種がある。その一つが、医療機関だ。

医療崩壊を防ぐ、という文脈では毎日のようにその状況が報じられているが、経営面での報道はほぼ皆無だ。特に、陽性者の治療に当たる医療機関以外の医療機関、地域の中小病院やクリニックなどについては、院内感染が生じた場合くらいしか注目されていない。
一見すると、多くの医療機関はCOVID-19の影響を受けていないかのようにも見えるが、実は少なく無い医療機関に迫る危機がある。
それは6月に医療機関を襲う、「収入減」だ。

我が国の医療機関の殆どは、公的医療保険制度に基づく「保険診療」を取り扱う医療機関で、その収入の多くは診療科により割合の差こそあれ保険診療を行うことに対する報酬、「診療報酬」が占めている。
この診療報酬は、医療機関が行った診察や治療行為について(療養の給付という)、一定のルールに基づいて(診療報酬点数表等)算出した料金を審査支払機関(社会保険診療報酬支払基金・国民健康保険団体連合会)に診療報酬明細書・請求書を用いて請求する。これを受け取った審査支払機関はその内容がルールの合致しているか、保険診療として適切かどうかを審査した上で、診療報酬を医療機関の指定口座に振り込む。
この診療報酬の請求と支払は月単位で行われる。そして診療した月の翌々月に医療機関の口座に振り込まれるサイクルとなっている。例えば、3月ひと月の医療機関の診療報酬は3月末でしめて4月初旬に審査支払機関に請求し、審査を経て5月の下旬に医療機関の口座に振り込まれるということになる。この間、医療機関が受け取っているキャッシュは、基本的に患者が窓口で支払う一部負担金のみだ。

COVID-19に対する危機感が高まり始めてから、地域の医療機関では外来患者の減少が生じている。診療科や地域によってその影響には差があるが、前年比で20〜30%の患者減が生じている医療機関や、「うちは50%以上減っている」という医療機関、中には「9割以上減った」という声もある。
医療機関はワンオペでやりくりしている事は殆どなく、多かれ少なかれスタッフを抱え、医療機器のリースを利用し、駅近くなどではテナント賃料の支払いも伴っている。収入の大半を占める診療報酬が3割や5割も減少したら、たちまち財政的に逼迫する。
ところがそのような声はほとんど聞こえてこない。

それは先に説明した診療報酬の支払いサイクルが関わっている。4月に医療機関が受け取る診療報酬は2ヶ月前の2月に行った診療に対するもので、緊急事態宣言を受けてからの外出自粛や3月に見られた自主的な自粛行動の影響を受ける前のものだ。もちろん、2月にも既に患者の減少は起き始めていたが、緊急事態宣言後よりはまだ軽度なものだった。
つまり、大幅な患者減が生じた3月、そして4月の影響は、5月そして6月の振込額に現れるのだ。緊急事態宣言を受けた影響が現れる6月、それは医療機関の経営に大きな影響を及ぼすことが危惧される。
ただでさえ、折からのマスク不足や消毒アルコール不足をはじめとする医療資源の不足と高騰、感染防御の為のシールド設置などの院内感染対策のための追加投資など、コストは増えている。それに加え、遅れてやってくる収入減は、少なく無い医療機関を経営危機に直面させることになりかねない。

ここにきて、全日本病院協会(全日病)の猪口雄二氏が東京新聞の取材に答え、6月危機に言及したが(<新型コロナ>民間病院6月危機 「資金底つく」 コロナ以外の患者減「助成必要」 全日病会長:4月24日東京新聞)、医療機関側からの危機を訴える動きは、まだあまり見られない。
5月に緊急事態宣言が解除または緩和されたとしても、外出自粛の取り組みは継続されるであろうし、医療機関の患者数が前年度並みに回復する可能性は高く無いだろう。数ヶ月、もしくは年単位の時間がかかることが予想される。

まずは6月に迎える危機を地域の医療機関がどのように乗り越えられるのか、必要な支援は何なのか、早急な検討と対応が必要では無いだろうか。

(KEY CHEESE 編集部)

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