足並み乱れる政府と7都府県〜営業自粛要請と損失補償が争点か〜

足並み乱れる政府と7都府県〜営業自粛要請と損失補償が争点か〜

4月7日、政府は5月6日までの緊急事態宣言を公示した。対象地域とされた東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、大阪府、兵庫県、福岡県は、特別措置法に基づき知事が外出自粛や指定業種の営業自粛等の要請などを行うこととなる。
小池東京都知事が、「ロックダウン」との言葉を用いて、緊急事態宣言の必要性を訴えてからだいぶ経過してからの、緊急事態宣言で、この間、政府と都やこれらの府県の間で水面下で調整が進められているものとみられていた。
特に東京を中心とする一都三県は生活圏としては不可分の関係にあり、住民への要請内容に差が生じることで、新たな人の移動などを生む可能性もあるため、足並みを揃える必要があると考えられている。
この調整に時間がかかり緊急事態宣言が遅くなったもので、宣言後は速やかに各首長がそれぞれの住民に対し要請を行うものと思われていたが、宣言翌日に明らかになったのは、7都府県と政府の足並みの乱れだった。

当初、東京都と政府の間で営業自粛を要請する業種の範囲に違いがあり、このすり合わせに難航している、との報道がなされていた。理容・美容業は自粛要請の対象となるのか否か、政府側の記者会見などで度々質問が出され、メディアが報じていたのもこのためだ。
理容・美容業を自粛要請の対象としたい東京都と、対象としないと考える政府の相違、これが争点という捉え方だ。

しかし、昨日の全国知事会が開いた緊急対策本部での議論を受け、見えてきたのは、自粛要請の範囲の違いではなく、自粛要請に伴う損失補償の有無が争点になっているということだ。
実際には、「自粛を要請した事業者に損失補償を行いたい東京都と、行わないとする政府」という構図だった。
全国知事会は8日の緊急対策本部の議論を受け、「『緊急事態宣言』を受けての緊急提言」を取りまとめた。
この提言は、5項目からなり、1項目が、自粛と損失補填にかかるもの。提言では

「イベント等の自粛や事業活動の休止については、主催者や事業者など地方公共団体からの要請 の趣旨を理解し、協力していただくことが非常に重要であることから、国においては、まずもっ て緊急事態宣言の対象地域を皮切りに、中止・休止に伴う営業損失について補償するなど、主催 者や事業者が安心して要請に協力していただけるよう、強力かつ実効性のある対策を講じること。」

としている。
速やかに営業損失について補償し、自粛要請を実行あるものにしたい知事会の強い意向が伺える。

緊急事態宣言に際する安倍総理の記者会見では、この補償について明確に否定している。政府は、現時点では補償するつもりはない。
一方で、都道府県の首長、とりわけ小池都知事は補償を必要不可欠のものと考えている。この違いを埋めるための交渉が、緊急事態宣言は出されたが、自粛要請はまだ出されていないという、空白期間を生み出しているのだ。

この認識の違いに大きな影響を及ぼしている要素が、2つある。
一つは、東京都知事選だ。
都議会自民党の異論を押し切り、小池都知事を推すことを固めた自民党だが、安倍首相ら現政権中心メンバーと小池都知事の関係は盤石とは程遠い。むしろ、互いに駆け引きを重ねる中で得られば均衡点に過ぎない。
COVID-19への対応での食い違いが、この微妙なバランスの上で成り立っている両者の関係を崩すことは、お互いに避けたいところ。
しかし、東京都が置かれている感染爆発と医療崩壊の危機目前という状況は一刻の猶予も許さず、自粛要請が実のあるものとならなければならない。小池都知事としては、損失補償を伴わない要請では人との接触を8割減らす目標など、到底到達できないと捉えており、自粛要請と損失補償はセットで行いたいのだろう。
他方、自民党としてはこの間の国会審議で、野党から再三再四「自粛要請は損失補償とセット」という意見を出され、ことごとくはねつけてきた経過がある。緊急事態宣言に際しても、損失補償は否定したばかりで、今のタイミングで「やっぱり補償します」とは言い難い。
この食い違いが、都知事選にどのような影響を及ぼすのか、お互いに見据えての駆け引きとなっている。

もう一つが、財政力の違いだ。
黒岩神奈川県知事がメディアに、東京都は独自に補償する財力があるが他の道府県にはその力は無い、と発言しているように、東京都は国に頼らずとも当面の損失補償を行う財政力がある。
損失補償は必要だが、そのためには国の支援を受けざるを得ない他の首長と、独自にでも実施できる東京都との間に、方針の違いが生じるのは当然と言えば当然のこと。
問題となるのは、東京都のみが損失補償を実施した場合だ。補償の有無により自粛効果に差が生じた場合、東京都で生じていた需要が生活圏を共にする他の3県に流れ込むことが懸念されることだ。需要の流入は、人の流入でもある。この流入が、感染拡大につながることは火を見るより明らかであり、東京都以外の府県からすれば何としてでも避けたいところ。
損失補償は必要だが政府の判断・決断を待ちたい他の知事と、独自にでも実施に踏み切れる小池都知事との間にズレが生じているのだ。

東京都は10日には事業者への自粛を要請し、11日から実行することを明らかにしており、一両日中には一旦の結論が示されることとなる。
東京都が折れるか、政府が折れるか、お互いに一定の歩み寄りはあるのか、その決断がどのような影響を社会にもたらすのか、事態は大きな局面を迎えることとなる。

(KEY CHEESE 編集部)


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