新型コロナウイルス感染症がもたらす、育成環境の危機〜経営危機に直面する街クラブ〜

新型コロナウイルス感染症がもたらす、育成環境の危機〜経営危機に直面する街クラブ〜

サガン鳥栖の経営危機が報じられた。と言っても、これは新型コロナウイルス感染症の影響によるものではなく、スポンサー離れを主要因とするもの。鳴り物入りで入団したフェルナンド・トーレスが引退を発表してから、大口のスポンサーを立て続けに失ったことが原因だ。
2018年度も赤字決算で人件費の削減などを進めてきていたが、それ以上にスポンサー収入源が大きく響き、2019年度の赤字額は20億円を超える結果となった(サガン鳥栖公式発表はこちら)。
これはJリーグからの借り入れや前払いなどを利用してもカバーできる金額ではなく、既に身売りの可能性もささやかれ始めている。
サガン鳥栖は、アカデミーの評判が高く、アビスパ福岡がある福岡県からもあえてサガン鳥栖のアカデミーを選ぶ選手がいる程だ。J3以下からの再出発や身売りなど、サガン鳥栖の未来は流動的だが、アカデミーで研鑽を積んでいる選手たちにとって大きな不安となっているだろう。トップチームのことだけではなく、アカデミーの選手たちにとって何がベターなのか、経営陣の判断において忘れて欲しくはない。

サガン鳥栖の経営危機は新型コロナウイルス感染症の影響ではなかったものの、育成年代を支えている街クラブは、新型コロナウイルス感染症により大きな危機に直面している。
先のサガン鳥栖の経営情報のアカデミー関連収入とアカデミー人件費+アカデミー運営費を比べると、アカデミー単体でも赤字であることがわかる。グッズ販売や広告費など、アカデミー関連収入に加えられていないものもあるだろうが、それも微々たるもの。J下部のアカデミーでさえ赤字経営なのだから、街クラブの経営が厳しいことは想像に難くない。
街クラブの収入の中心はチームやスクールの会費収入だ。これに加えて、地元企業によるスポンサー料、グラウンドをレンタル利用してもらうことでレンタル収入を得ているクラブもあるかも知れないが、チームの収入の大半が会費収入であるクラブチームが殆どであろう。
街クラブの雇用形態も、スタッフ全員がフルタイム雇用というケースは珍しく、多くのスタッフがパートタイムやアルバイトだ。それでもフルタイムのスタッフの給与水準は低く、街クラブの指導者だけで家族を養っていけるような収入を得られている指導者は少数に留まる。それでも経営はカツカツというのが街クラブの現状なのだ。
そのような街クラブに新型コロナウイルス感染症による活動自粛とその間の会費収入減少が襲いかかっている。これはまさに街クラブにとって死活問題と言える。

日本の育成環境はJ下部以外は概ね、小学校年代は地域の少年団or街クラブ、中学校・高校年代は学校の部活or街クラブという構成になっている。特に中学年代は街クラブでサッカーをプレーする選手の割合が都市部では高く、学校の部活では部員集めに苦労するほどの状況になっている。小学校年代でも、地元の少年団に在籍しながらチームの活動がない日に街クラブが運営するスクールに通うケースも多い。
つまり、地域の街クラブが存在しなくなるということは、小学校年代・中学校年代の選手たちにとっては、サッカーをする機会を大きく奪われることを意味する。

地域の街クラブも様々な取り組みを試みている。トレーニングメニューの映像配信やZOOM等を用いた集団トレーニングの実施など、チーム間で情報共有したりしながら進めている街クラブも少なくない。しかしこれらの取り組みは、活動を自粛している選手たちのコンディションを少しでも良くしたいという取り組みであって、クラブの経営を改善するようなものではない。もちろん、こうしたトレーニングを提供することで、会費を徴収しているクラブチームも無くはない。だが、会費徴収を諦めているチームも多いのが現実だ。

5月の連休明けからこうした街クラブが以前のように活動できるようになれば良いが、活動自粛が継続されるようであれば、3月、4月と2ヶ月を経て青色吐息の状態の街クラブはもたなくなる。これは、街クラブという組織の消滅を意味するだけでは無く、そこで活動する選手たちの活動場所も消滅することを意味する。
また、若き指導者たちが育成の場から離れざるを得ないことにもつながるであろう。
まさに、育成環境の危機だ。

現時点で、日本サッカー協会から何らかの支援がなされたとの報道は見られない。事は街クラブ単体の問題では無く、日本のサッカー界を支える存在である街クラブ、そして子どもたちの育成環境というサッカー界にとっての危機なのだ。
日本サッカー協会が何らかの策を講じる必要があるのではないだろうか。

(KEY CHEESE 編集部)

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