COVID-19 PCR検査は手段であって目的ではない

COVID-19 PCR検査は手段であって目的ではない

欧米でのCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の感染が拡大し、世界規模での拡大(パンデミック)となっている現在、日本の検査数の少なさを指摘する声が上がり続けている。

しかし、検査は手段であって目的では無い。
現在、COVID-19に有効な治療法は確立されていない。HIV感染症の治療薬や喘息治療薬、抗インフルエンザ薬などが効果を発揮した症例もあるが、いずれもまだ確立された治療法にはなり得ていない。重症例に限り、止むを得ず投与しているのが現状であり、それは仮に奏功した場合にベネフィットがリスクを上回るからだ。呼吸管理すら必要のない状況では、これらの薬剤の投与はベネフィットがリスクを上回ることを確認できていない。故に、重症の症例以外にはこれといった治療介入を行わないのが現状だ。

では、検査の有無で何が変わるのだろうか。
検査で2019-nCoV(新型コロナウイルス)に感染していることが確認できた場合であっても、特段の治療介入が必要と判断されなければ安静にしていることしかできない。つまり、重症でなければ検査の有無によって治療は何も変わらない。
一方、現在はCOVID-19は指定感染症に位置付けられているため、陽性となった場合は原則として指定医療機関での隔離入院となる。これは症状の軽重や治療の必要性の有無は問われない。

ということは、現在の日本におけるCOVID-19への対応としては、治療が必要となる症例に限りPCR検査を行い、陽性と確認されれば指定感染症として隔離入院させる、陰性でも治療が必要なことには変わりないので、しかるべき医療対応を取る、隔離入院した場合にはこの短期間ながら得られた症例に基づく知見をもとに、適切と考えられる治療と予後予測に対応する準備を行う、という考え方を取っているといえよう。
そして、陽性が確認された場合には、更なる感染拡大を防ぐために濃厚接触者に対して感染確認のために検査を行い、感染が確認された場合は隔離入院させる、ということになる。

現時点での日本での検査の目的は、指定感染症としてCOVID-19であることにより定義されていると言える。
つまり、指定医療機関へ入院させる重症例のふるい分けと、感染拡大防止の2つが検査の目的と言える。

では、PCR検査の件数を増やすことで、これらの目的がさらに達成できるのであろうか。

重症例に対するふるい分けという目的に対しては、医師が必要と判断した症例に対してのみ検査を行えば良いのであり、そうした症例に対する検査が十分に実施されていれば良いということになる。残念ながら現状は相応に検査が実施されてはいるが、一方で臨床現場で医師が必要と判断したものの検査の実施を断られているケースが報告されており、必ずしも十分であるとはいえない部分もある。医師が診察の上、必要と判断した症例には検査が行われるだけの体制強化が必要であり、そのための検査数の増加は必要といえよう。

では、感染拡大の防止という点ではどうであろうか。
現在、感染経路が辿れない感染例が確認されており、既に市中での感染が起きている状態である。すなわち、陽性者を確認し感染防止のために隔離入院させて蔓延を防ぐ段階では無くなっている。
陽性だからどうではなく、症状があったら自宅で安静にしている、という段階なのだ。
このような状態で、あえてPCR検査で感染の有無を軽症者や無症状者に行う意味が果たしてあるのだろうか。
冒頭に記したように、無症状や軽症の場合、陽性か否かで治療法に変わりはない(というか、その段階で治療法はない)。医療的対応には何も変わりがないのだ。

このように重症例のふるい分け、感染拡大の防止という目的から見て、軽症者にもPCR検査を拡大する必要はあまりないと言える。
もちろん、臨床現場で医師が必要と判断した症例でも検査が行われていない事例があり、こうした事例は解消されなければならず、その限りにおいては検査は増やさなければならない。これは目的を達成するために必要な検査であるからだ。

COVID-19については、現在のPCR検査の数が少ないことを指摘する意見が見られるが、その内容を精査すると、本来の目的を達成するために必要な検査が行われていないが故の意見と、目的を見失い、検査そのものが目的化している意見とが混在している。
我が国の検査件数が少ないことは事実ではあるが、その件数を比較すべきは他国ではなく検査の目的を達成するために行われるべき検査数と実際の検査数である。
我が国のCOVID-19による死亡者数が他国に比べて抑えられている現場からは、現在の我が国が設定している目的は大きく間違っているとは言い難い。その目的を達成するために、より十分にPCR検査を手段として活用すればよく、それは医師が必要と判断した症例がきちんと検査されることであって、軽症者にもPCR検査を拡大することではない。

検査数が少ない、という事実に対し、検査を増やすことを目的とするのではなく、COVID-19という感染症に立ち向かうために、本来の目的を達成する手段としてどのように検査体制を充実させていくのか、どのような検査が不足していて増やさなければいけないのか、冷静に議論していく必要があると考える。

(KEY CHEESE 編集部)

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